前置き
うう……疲れた……もういいでしょうアイルさん……。
まだ急降下練習が半分も終わってないが・・・
noburakenkyujyo.hatenablog.jp
まあいいだろう、今日は終わりだ!
(ジャンプして降りるだけの繰り返し……つまらなすぎる……!)
こんな時は本でも読んで気分転換です。
イブ、本読むのか?ぐりとぐら?
和みそうでそれはそれでありですが……。
あ、これ聞いたことあるタイトルだな
『1984年』ですね。
でもタイトルを知ってるだけで中身は全然なんだよなぁ
なら、そうですね。今回は私がアイルさんに教えて差し上げましょう。
ジョージ・オーウェル『一九八四年』
高橋和久訳 ハヤカワepi文庫 2009年
1.あらすじ
〈ビッグ・ブラザー〉率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は以前より、完璧な屈従を強いる体制に不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるのだが……。(裏表紙より)
さて、これが『1984年』の前半のあらすじですね。
なんか知ってるなって思ったら、このビッグ・ブラザーってのは有名だよな?
『MGS5』でビッグ・ブラザーを意識したポスターが出たりしてたぞ
そうですね。彼こそが『1984年』を代表する登場人物……と言えるのか微妙なところですが。
最も知名度がある名前なのは間違いありません。
ではこれを踏まえて基本的な設定を見てみましょう。
2.設定
主人公は真理省に務めるロンドン在住の39歳男性、ウィンストン・スミスです。
独り暮らしで、仕事にも充足感はなく、まずいお酒で足のこぶの疼きを誤魔化すような生活を送っています。
平たく言えば、冴えない下っ端公務員ですね。
真理省ってなんだ?あらすじには「歴史の改竄」とかいうワケアリなこと書いてあるけど
ウィンストンらが暮らす国家オセアニアを支配する党の機関のひとつです。
・・・悪い、情報量が多くてわかんねーんだけど
ロンドンの話だよな?オセアニアってオーストラリアとかあの辺だろ?
現実とフィクションの区別がつかないと苦労しますよアイルさん。
あぁ?
まあ混乱するのも無理はありません。作中のオセアニアと現実のオセアニアは表記こそ同じですがまるで別の概念を指しているのです。
作中世界は大体こんな感じの三つの超大国に分かれて存在しています。戦争地域はもはや奪われるだけの土地です。
えぇ・・・三つだけか?他の国は?
ありません。すべて吸収されました。
・・・・・・
『オセアニア』は現実でのオセアニア州を含む英米全域ですね。そういうわけでオセアニアのロンドンというのは何も間違っていないのです。
このオセアニアを支配する『党』の機関として愛情省・潤沢省・平和省・真理省がありますが、どの機関も名前とは真逆の行為を行うためのものです。
愛情省では犯罪人の拷問を行い、潤沢省は慢性的貧困を誤魔化し、平和省は戦争を取り仕切り、真理省では都合の悪い過去を抹殺します。
やべー国だな・・・。
この監視と管理に縛られたオセアニアのリーダーが見えざる指導者〈ビッグ・ブラザー〉です。
オセアニア国民のほとんどはBBを愛していて、彼が率いる『党』の行為にも一切の疑問を持ちません。
というか、疑問を持つこと自体が不可能にされています。
たとえば『党』が発表する天気予報で「雨が降るでしょう」と言っていたとして、実際は降らなかったとしたら「当てにならなかったな」と思うのが自然ですが、『党』は一味違います。
雨が降らなかったことが確定した瞬間、「天気予報は晴れだと言った」というように記録が書き換えられ、事後的に『党』が正しかったことになります。
それをするのがウィンストンみたいな真理省の職員ってことか・・・
それについて「いや、予報は外れたはずだ」と考えるだけでも『思考犯罪』とされ愛情省にぶち込まれるうえ、確かめようにも記録はない。他の国民は思考停止で『党』に従うよう教育されている者ばかりなので誰にも理解してもらえない。
こわ~・・・四面楚歌だな
そんな超管理社会にウィンストン・スミスは生きているわけですね。
3.ジュリア、オブライエンとの出会い
①恋人ジュリア
そうやって窮屈に生きていたウィンストンですが、彼の職場に二人、気になる人物がいました。
まずは二十代の美しい女性ジュリアです。
ラブロマンスは物語の華だよな!
………………ですね。
ん??
ウィンストンは若い女性が苦手でした。
彼自身、自分が『犯罪思考』を持っているのを知っているので『思考警察』という愛情省の末端にその傾向を見抜かれないようにしなければいけないのですが、そういう能力に長けているのは若くて活発な女性だと思っているためです。
最初は敵対してた二人が徐々に惹かれていくってパターンか!少女マンガじゃあ常識だな!
いえ、ウィンストンはともかく、ジュリアの方は最初から彼に対し自分と同じ傾向――『犯罪思考』の匂いを嗅ぎ取り、好意を持っています。
ちぇっ、つまんねーの
……奇しくも、やっぱりウィンストンの思考犯罪は若い女性に見抜かれていたわけです。
ジュリアに言い寄られる形で交際を始めた二人なわけですが、このオセアニアで性の自由があるわけがありません。認められているのは夫婦間での生殖目的でのセックスのみですから、この恋が党に知られれば愛情省送りです。
愛情って言葉が嫌いになりそうなんだけど
彼らはその監視の目をかいくぐり、場所や時を選び逢瀬を重ね、ついには党のマークが薄い地区に安アパートを借り、そこに秘密の愛の巣を構えることにも成功します。
一応そういうところもあるんだな。どこもかしこも見張られてるわけじゃないのか?
党が監視に用いるのは人の目のみならず『テレスクリーン』というテレビのようなものもありまして。
党が作った番組が映る一方、視聴者側の様子も党から見えるというシステムになっています。
Zoomみたいな感じだな!
このテレスクリーンがある場所はすべて監視下ですが、テレスクリーンすら持たない貧困層プロールの居住区は比較的監視が緩やかなんですよ。
※プロールは家畜と同じ程度の扱いで人権がないため、ウィンストンが課せられるような義務・制限は一切ない。
二人が借りた部屋はボロですがテレスクリーンがないうってつけの場所でした。
ウィンストンはこの部屋でジュリアとの愛を育みつつ、何にも縛られない自由でパワフルなプロールがいずれ党を打ち倒すことを夢想していました。
②謎多き男オブライエン
ウィンストンにはもう一人気になる人物がいます。職場で時々見るオブライエンという男です。
ウィンストンが『党外郭』と呼ばれる下っ端なのに対しオブライエンは『党中枢』というかなりのエリート党員です。
エリート党員ってことは・・・ガッツリ管理社会に忠誠を誓ってるってことだよな
もちろんそのはずなのですが、しかしウィンストンはオブライエンを見るたびに、
「この人もしかして味方なんじゃないか?」と思わずにいられないのです。
えっ、なんでだ?
さあ。
おいぃ?
とにかくウィンストンはオブライエンに謎の信頼感を抱いていました。
4.エマニュエル・ゴールドスタインと〈ブラザー同盟〉
『1984年』に登場する言葉といえばまだいくつも有名な単語がありますが、中でも『二分間憎悪』というイベントは有名かと思います。
あ~~・・・聞いたことあるような・・・ないような・・・
簡単に言うと、ビッグ・ブラザーを賛美し、その敵であるエマニュエル・ゴールドスタインをメタメタに罵りまくる集まりが定期的に開かれる、というものです。
なんつーか・・・現代でもあんまし他人事にはできない感じがあるぞ
ゴールドスタインはかつてBBや仲間と共に党の体制を作った人物と言われているのですが、やがてBBを裏切り党に仇なす存在となった不俱戴天の敵です。
『二分間憎悪』ではテレスクリーンに彼の残虐な行いが映し出され、党員が罵声を浴びせたのち、BBの顔が映りみんなが安心して感謝する、ということが毎回行われていますね。
ビッグ・ブラザーは国教みたいなもんなんだな・・・
その一方、ゴールドスタインは今でも生きていて党打倒のために〈ブラザー同盟〉というものを組織しているという噂もあります。
党の支配を壊したいウィンストンはこの同盟に加われないものかと考えていたところ……。
なんと、例の男オブライエンからブラザー同盟に加わらないか、と勧誘されるのです!
キタ!ウィンストン大勝利!希望の未来へレディ・ゴーッ!!
………………はい。
やめてくれよ・・・もう絶望感は足りてるよ・・・
5.!!!ネタバレ領域!!!
ここからは物語の核心部分にも触れます。
ネタバレを回避したい方は是非ご自身の目で結末を確かめてください。
壁に向かって何話してんだ?
なんだかテレスクリーン越しに見られているような気がしたもので……。
党中枢でありながらブラザー同盟のメンバーであったオブライエンの手引きにより、ウィンストンとジュリアはその一団に加わることができました。念願だった党打倒の運動に加わることができたのです。
と言っても、思考警察の摘発を避けるため、メンバー同士はほとんど互いを知らず、下っ端メンバーの仕事は「何か大義のためだが、何の意味があるかわからない」ようなことのみです。
ウィンストンもメンバーとしてやったことといえばゴールドスタインの著作を読むことくらいでしたね。
せっかく反旗を翻したのに地味な展開だな
ゴールドスタインの著作、『例の本』とか呼ばれるものですが……メタ的に言うとこれは読者に対しオセアニアを取り巻く世界の情勢、党の全貌を明らかにするような文章で、かなりの分量があります。
世界設定を把握するだけなら中盤にあるこの文章を読むだけで少しは理解できるでしょう。
設定もいいけど、わたしはウィンストンの企みがどうなるのかって方が気になるぜ!
はい、失敗に終わりました。
・・・え?
それどころかすべては罠でした。
・・・・・・
オブライエンはブラザー同盟のメンバーではなく、超がつくほど完全無欠の『党員』です。彼は『党』というものを擬人化したような存在なので、ウィンストンの味方であるはずがありませんでした。
・・・・・・・・・
オブライエンはウィンストンの『犯罪思考』を矯正し、屈服させ、反乱分子を消滅させることで党の権力をさらに強固なものとすることが目的です。ブラザー同盟を騙ったのも彼らを騙し摘発するために他なりません。
ちょっとそんな気はしてたけどさぁ・・・
そしてウィンストンが借りていた安アパートの大家さんは『思考警察』の手先で、実は壁の向こうにテレスクリーンさえ隠されていました。
ウィンストンが秘密だと思っていた全てのことは党に筒抜けだったのです。
終わりじゃん・・・
終わりです。
ウィンストンとジュリアは愛情省にぶち込まれ、オブライエンの手により拷問にかけられ思考の矯正を迫られます。
この時、ウィンストンは肉体的にも精神的にも極限に追い込まれるのですが、どうしても党が求めるように認識を捻じ曲げることはできません。
恐怖と苦痛と絶望が窓のない尋問部屋に満ち、しかしその中でも拷問官であるはずのオブライエンに対し親愛の情と一縷の希望を抱いてしまう……。その真実と矛盾が渦巻くウィンストンの心理描写にゾクゾクしてしまいますね。
クッソ趣味悪いなお前・・・
性格のよろしくない方と毎日一緒にいては、そうなるのも宜なるかなというものです。
さて、自らを越える知性を持った狂人オブライエンの強力な説得により『2+2=4である』という信念もジュリアへの愛もへし折られたウィンストンはついに屈服し、党が党員に求める正統な思考『二重思考』をも体得させられます。
すなわち、『昨日の天気予報は外れた』しかし『党は正しい予報をした』という矛盾を疑いなく受け入れられるよう矯正させられ、ついに愛情省から解放されました。
一応生き残ることはできたんだな
ですがいつ死ぬかはオブライエンの気まぐれ次第です。
それに、ラストでは党への忠誠を拒絶し続けてきたウィンストンがBBへの純粋な愛情を示すというどんな破滅より絶望的な生存が描かれていますし……ウィンストンとジュリアにとってバッドエンドなのは間違いありません。
結局、ウィンストンは党の真実についてほとんどを知ることができませんでした。
〈ビッグ・ブラザー〉なる人物は実在するのか?ゴールドスタインと〈ブラザー同盟〉は?オセアニア以外の世界は本当はどうなっているのか?そして、今は本当に『1984年』なのか。
分かったことといえば、二重思考の完全な体現者=究極の嘘つきであるオブライエンから語られたこの事柄くらいです。
党は改竄やプロパガンダ、監視、拷問、あらゆる方法によって権力を維持しているが、しかしどうしてそこまで権力を欲するのか。
その答えは一つ。権力を保持するために他ならない。オブライエンが贅沢をしたいとか誰かを苦しめたい、管理したいというわけではなく、『党』を絶対の存在にしておくためだけにすべての行為は行われているのだ……と。
それが真実なのかどうかすら、もう確かめようもないのですが。
6.まとめ
さて、これがジョージ・オーウェル著『1984年』の大雑把なストーリーですね。
気が滅入るぜ・・・
この作品で感動するところといえば、やはりこれほど広大かつ閉塞感溢れる世界をたったひとりの作家が作り上げたということですね。
オセアニアを支配する基本原理『イギリス社会主義』や思考を妨げるために言葉を殺す『ニュースピーク』という考え方、嘘と真実の境界をかき消す『二重思考』……。これらを頭の中でまとめ上げ、読者が胸を悪くするほどのリアリティをもって語るジョージ・オーウェルの筆力には脱帽です。
日本語訳も読みやすくて、違和感なく物語に入っていけましたしね。
ある程度重たい話でも読めるという方にはとてもおすすめできる作品です。
話聞くだけでお腹いっぱいって感じだよ・・・
でも色んなところでオマージュされたりしてる作品だし、教養的に一回は読んでみたいところだな
でしたら、是非本編の後に載っている附録と解説部分まで読んでみてくださいね。
解説は大体読むけど・・・ふろくもあるのか?限定プロモカードでもついてくるのかよ?
漫画雑誌じゃないんですから……。
ついてくるのは『ニュースピークの諸原理』という論文のようなもので、設定資料らしきものです。
……なのですが、筆者が誰かは明らかにされていないんですよね。オーウェルが読者向けに書いたものとも言えますが、ゴールドスタインのあの本のように作中世界の誰かが書いたものかもしれません。
トマス・ピンチョンによる解説ではその点について考察されていて、私はその文章まで含めて一つの作品になるのではないかと思います。
なるほどぉ、ま、そこまで言うなら読んでみてもいいかもな。
というわけでこれで『1984年』の解説は終わりです。
本当に面白いので高校の教科書に載せてほしいくらいですね。
重すぎるだろ、『こころ』くらいにしとけよ・・・
とはいえ面白そうだったし、今度読んでみることにするかな
まぁ~・・・2084年までには読むぞ!
はい愛情省送り。
★おわり★